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2021.07.01

ダイジェスト <Sayegusa Experience Talk> No.5 養老孟司さん

解剖学者・養老孟司さんにお聞きする
子どもたちを幸せにするためのヒントとは

三枝今日は私の父と同い歳の先生がお相手ということで、かなり緊張しておりますが、よろしくお願いいたします。

日本だけの問題ではないかもしれませんが、最近は子どもたちの自然体験不足が問題になっています。現代の都心に住む子どもたちが置かれている状況を、先生はどのようにご覧になっていますか?

 

養老さん(以下敬称略):自然体験というのは、根本的には里山に連れていって放しておく。勝手にさせておく。そういう時間をできる限りもたせておくことです。人間は元々、自然のなかでもちゃんと育つように出来ているはずなんです。いまの子どもだけでなく、親の世代でも、そういうことを発育の段階で経験出来ているかというと、かなり怪しくなってしまいました。

一方、都市環境というのは、人間が自然をコントロール下に置いて特定の目的のために作ったもの。間違いなく不自然です。今、スマートシティってさかんにやっていますけど、デジタル化やAI化が進んでいくと無駄なものが一切ない世界になっていきます。
徹底的に便利にするっていうことは、特定の目的のために全てをシステム化してしまうことです。子どもは本来、置かれた状況のなかでも隙間をみつけて、居場所を見つけて遊べる生き物なのですが、そこには子どもの入る余地がない。子どもは落ちているゴミでも遊べるわけですけれど、そういうのが一切ないような世界になっちゃうわけですから。そういう隙間といいますか、余裕が、効率化の過程でどんどん消えていくんですね。

世界中が猛烈な勢いで都市化していることは、ほんとうに問題だと思います。都市化をすすめる中で人間は、自然に属する事柄を差別してわきに押しやってきた。そういう世界を作ってしまった影響がはっきり出ているのが、少子化ですね。どこの国でも子どもが少なくなっています。つまり、子どもと都市化された環境が折り合わないってことがはっきり示されているんですね。僕は都市化したから少子化になったのだと思っています。都市とは基本的に意識が作り出した世界。今の人間の意識の中では自然物が余分なものだから、子どもが入ってこないんですね。

 

三枝:都市という徹底された人工物の中では、子どもという自然物が存在しにくいということですか?

 

養老:そう。子どもは自然物です。だから、予定されていないもの、都市化には必要ないものという発想になってしまうんです。だから、少子化のひとつの解決策としては、子どもが入ってくることを予定する都市開発ですね。子どものための空間、子どもにどういうものを与えるかとか、そういうのを皆でちゃんと考えることです。

三枝:(前略)日本人はこれからどういうところに誇りを持っていったらいいのでしょう?日本の将来の幸せはどういうところにあると思われますか?日本の未来に希望をもつヒントのようなものはないでしょうか?

 

養老:今回のパンデミックがあって日本の立ち位置がはっきりしてきましたね。そして、今は、「人はなぜ生きるのか」「生きるとはどういうことなのか」「幸せとは何か」「人生とは何か」みたいな、昔でいえば若者たちの考えるような問題が、大人のものになってしまいました。

でも、未来に希望を持つとか、そういう考え方そのものが、都市化された考え方の延長なんですね。だって、昔はごく普通に「今を楽しむ」「人生っていうのは今しかない」という考え方があったのに。今はそうではなくて、将来思考ですね。子どもがそれに引きずりまわされて、大人になってからどうのっていう考え方で教育されてしまっている。例えば、小学生のうちからプログラミングだとかって。基礎もない小学生に何を教えればいいの?って、プロの人たちはみんな笑っていますよ。将来必要になるからって素人が考えているだけなんですよ。

よく考えればわかるように、子どもの時代もその子の「人生」の一部ですから。その時代が幸せだということは、その子の人生が幸せだということです。その幸せを今の大人たちは子どもに与えていない。人生の幸せを知らないまま大人になったって上手くいくわけがないのです。

子どもを幸せにしてあげるのは、ぜんぜん難しいことではないんですね。子どもが要求することってそんなに大層なことじゃない。一千万円の車を買ってとか、そんな要求をするわけじゃないですよね(笑)?子どもが幸せそうにしている状況ってどんなものか、本当は、少し前の日本で育った人たちは知っているわけです。時間を自由に使って好きなモノやコトに集中して遊ぶとか、それも子どもの人生のうちですから、そういう幸せを与えてやる。そうすると子どものうちに「人生は生きるに値する」ということが理解できる。これはすごく大切なことですよ。(以下略)

三枝:サヱグサはこれから、子どもたちに良き体験となる“場づくり”をしたいと思っています。そこでは何かを教えるのではなくて、子どもがそれぞれの感性でいろいろな気づきを得られるような「場」を作ってあげるのが良いのではないかという仮説を立てています。

(中略)先生は「養老の森」などで子どもたちへの色々な取り組みをなさっていますが、「教えない森の学校」というプログラムがありますね?

 

養老:山の中でただ遊んでいればいいっていうね(笑)。

 

三枝:それは、さっき言ったように、森という場を用意してあげるだけで、あとは落ち葉を拾おうが、昆虫を捕まえようが、ちゃんばらをはじめようが、木に登ろうが、子どもたちが考えて…

 

養老:考えてっていうより、子どもがひとりでに始めたことをただ見守るんです。

大人は、子どもがどう感じているかっていうことについて、時々考えた方がいいと思います。少なくても、「子ども時間も人生のうち」だっていうことを、世の中の常識にしなければいけません。

昔はそれが常識だった。なぜかというと、子どもが小さいうちに亡くなることが珍しくなかったからです。親は、「この子の人生はいつ終わるかわからない。だから今を思う存分生かしてあげたい」と思っていたんです。だから昔の人はそういう意味でも子どもに優しかったですね。僕がまだ子どもだった頃はそんな時代でしたから、大人はみんなそれを知っていた。けっこう厳しかったけれども、その時その時を存分に遊ばせてくれました。将来がどうだからとかっていうアホなことは言わなかった。

 

三枝:でも、世界的な傾向となっている都市化と子育てが連動した場合、システムを優先させるということが当たり前のことになったら、その上に成り立っていくしかなくなってしまうので、なんとかしないと…。

 

養老:今の世の考え方で次に起こって来るのは、教育を使って子どもをAIに向いたように変えちゃうということです。人の方をシステムの方に合わせる。独裁ってみんな嫌がりますけれど、資本主義もそういう状況になってきている。

(中略)震災のあともそうでしたけれど、コミュニティをどう考えるのか、根本はそこに行きますね。人は社会性動物ですから、生きていくためにはある程度の集団が必要です。その集団をどう考えるか。ヨーロッパではよく自給自足の村を作っていますけれど、そういうコミュニティを再生しようという方向がある。都市化の逆ですね。

三枝人工物である都市を破壊する必要はないでしょうけど、日本人はもう一度、自然とか里山で本来の人間としての営みに触れる機会を増やすとか、バランスを少しそちらにシフトしてあげないといけませんね。

 

養老:脱資本主義の考え方の裏には環境問題が裏にありますが、失われた20年とか30年ね、あれは、僕は、ひとつの機会だったと思っているんです。バブル崩壊後から経済が停滞して、いろんなことをするのにブレーキがかかりました。「失われた」というのは経済で物事を測っているからで、他のことで良くなった面もあるはずなんです。

本来、人の幸せなんて測れません。そんな中で、子どもの数っていうのは絶対的に幸せの指標となるもの。子どもが増えてくるような社会じゃないと未来もなにもないです。

 

三枝都市部の傾向として、少子化に加えて家族のスタイルも変化し、子どもが一人で過ごすことが多くなりました。そういう環境も子どもの成長に大きな影響を与えますか?

 

養老:そうですね。大いにあると思います。子どもにコミュニティがないということですね。僕らは、何の関係があるのかわからないじいさんばあさんによく怒られていましたよね(笑)。

 

三枝:それはよその庭の柿を盗んじゃったりしてですか(笑)。今は、知らない人に近づくなって子どもは言われていますし、大人も知らない子どもを叱るってことも怖くて出来ませんよね。サヱグサが交流をしている小滝という集落では、まだ、村の人みんなでそういう子育てをしていまして、これは非常に貴重な体験の場だと思っています。

 

養老:日本の出生率は、少し前の統計だと、一番高いのは鹿児島の徳之島、一番低いのは東京都目黒区だと言います。徳之島でも2.0はないのですが、その島では、「どんどん産みなさい。私たちが面倒を見るから」と周りの人たちが若いお母さんを応援してくれるそうです。

 

三枝:素敵ですね。少子化対策の成功事例として、フランスが子育て手当など金銭的な補助を厚くしたことがよく取り上げられますけど、根本はそういう問題じゃない気がするのです。

 

養老:はい。違うと思いますね。皆が、子どもが沢山いた方が楽しいと思えるコミュニティが出来ていないと。

三枝:やはりコミュニティ作りが重要なんですね。昔からずっとあった良いものが、どうしてこんなに壊れるのでしょうか?素朴な疑問で申し訳ないのですが・・・

 

養老:頭で考えるとどうしてもシステム化していきますね。都市化の問題もそこにある。無駄を省いてできるだけすっきりとさせたい。どこから見たって子どもの行動って無駄ですからね。例えば子どもは50年先の経済や社会なんて考えないでしょ。そういう物差しで測ると子どもが大切にされるようなコミュニティが排除されてしまうんです。

ダイジェスト版はここまでとなります。
この後、養老先生と三枝の対談は、教育論や里山留学、子どもに大切な「身体性」などテーマは縦横無尽に広がっていきます。ぜひ本編でご覧ください。

画:渡辺栄一

「バカの壁」の前にて。
この撮影の直後、先生が大好きなゾウムシをこの
壁の裏で発見! 捕獲の瞬間に立ち会いました。
その様子は本編動画にて!