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2019.11.15

対談 Green Dialogue vol.11

環境保全、環境教育などを通して社会貢献に取り組むさまざまなスペシャリストに、弊社代表の三枝 亮が話を伺う「Green Dialogue」。第11回目のゲストは、株式会社SouGo(ソウゴ)社長の北條(きたじょう)裕子さんです。SouGoは東京が本社の印刷会社ですが、一方で長野県北安曇郡の高地に4万坪もの広大なカミツレ(カモミールの和名)の有機栽培農園がひろがる「カミツレの里」をつくり、オーガニックに徹底的にこだわった癒しの宿「八寿恵荘(やすえそう)」を運営しています。この宿は、2015年に日本で初めて「ビオホテルジャパン(BIO HOTEL JAPAN)認証」を取得されたそうです。なぜ、どのような思いがあって、東京の印刷会社が長野でそのような宿を開いていらっしゃるのか、北條さんにお話を聞きました。(撮影:Yoshihiro Miyagawa)
株式会社SouGo代表取締役社長 北條 裕子さん

――八寿恵荘は、昨年、第6回グットライフアワード環境大臣賞の優秀賞を受賞されました。北條さんは東京の印刷会社を経営しておられますが、どのような経緯でカミツレの里や八寿恵荘を運営することになったのでしょうか。

 

北條さん:SouGoは父の晴久が1949年に東京・中央区につくった会社です。創設以来、「お役に立ちたい」を企業理念として掲げて、環境保全活動に力を入れてきました。たとえば、環境配慮型の印刷にこだわってきました。大豆アレルギーを持つお子さんが印刷物をなめてアレルギー症状が出たという事例を受け、その対応として業界でいち早くライスインクも採用しています。

 

――高度成長の時代からお父様は環境への配慮を実践されていたのですね。その時代は決して社会の環境意識は高くなかったと思います。

 

北條さん:父はここの(長野県北安曇郡池田町)近くで生まれて育ったので、自然に対する思いやりがあったと思います。思い返せば、私も小さい頃から添加物入りの物は極力して食べないなど環境に配慮した生活をさせてもらっていました。父は戦争で亡くなった友人がいたので、健康でいることの大切さや有難さも人一倍感じていたのだと思います。

そんな父でしたが、今から40年ほど前、喉頭がんを患いました。幸いにも完治することが出来たのですが、その時、漢方の薬学の博士との出会いがありまして、漢方治療で完治しました。この博士が研究されていたのが、ジャーマンカモミールでした。

取材で訪れたのは8月末。刈入れ後だったが、こぼれ種のカミツレの花が咲いていた

何か恩返ししたいと考えた父は、これを機に、ヨーロッパなどで古くから重宝されてきたハーブ、カミツレ(カモミール)の力に着目し、1984年に豊富な自然に囲まれたこの土地に、有機栽培のカミツレ畑を開墾し、抽出したカミツレエキスを製造する事業に取り組みました。いまでは、この畑は9000坪にまで広がり、5月中旬から6月上旬には約13万本のカミツレの華が咲き乱れます。

この畑を望める場所にあるのが、祖母の名前から名付けた八寿恵荘ですが、もとは社員の保養所として建てた施設でした。地元住民から、一般向けにも開放してほしいという声を受けて、2005年に湯治の宿泊施設「八寿恵荘」になったのです。

5中旬から6月中旬、宿を取り囲むように10万本のカミツレが咲き誇る(写真提供:カミツレの宿 八寿恵荘)

――そのような経緯があったのですね。昨晩は八寿恵荘に泊まらせていただいたのですが、天然木をふんだんに使用した室内はまるで森の中にいるような居心地の良さを感じました。そして従業員の方が大変丁寧なホスピタリティを持っていて、随所に細やかな気遣いを感じました。また、カミツレエキスがたっぷり入った「華密恋(かみつれん)の湯」は長風呂が苦手な僕でもゆっくり浸かることができました。すごく癒されましたね。夏休み中だからか、お客さんはご家族連れが多く、大人も子どもたちも心からくつろいで楽しんでいる様子が印象的でしたが、普段はどのような人が来ますか。

 

北條さん:お褒めいただき、ありがとうございます。乳がんの体験者さんやアレルギーを持つ方のツアーも企画していますが、ご家族連れや女性でも男性でもお一人でお泊まりになる方もいらっしゃいます。宿泊客の3~4割は食物や建材アレルギーなどをお持ちの方になります。癒しを求めにくる方が多く、3泊ほどゆっくりされる方も多いですね。

濃厚なカミツレの香りに包まれる“華密恋の湯”(写真提供:カミツレの宿 八寿恵荘)
赤松材の床はワックスをかけなくとも自然に艶が出るという

アレルギーを持っている方でも、安心して過ごしていただける空間にするために、この宿の建物には化学物質を一切使用していません。壁は漆喰、塗装剤も天然素材、建材には合成接着剤を一切使っていません。また、硬さや強度、風合いなどそれぞれの特色を活かして8種類の無垢材(自然素材)、アカマツ、スギ、ケヤキ、ナラ、ヒノキ、クリ、タモ、サクラの木を使い分けていますが、これは全て地元産(池田町や長野県産)の木材です。丸太から切り出したままの無垢材だから、床の肌触りもよいでしょう? 木が呼吸している証拠に、廊下や階段を歩くとギシギシと木の音が聞こえます。

スタッフたちが自家農園で育てた野菜が食卓にのぼる

また、お食事は自社農園で育てた無農薬野菜や無農薬米にこだわり、化学調味料や添加物は一切使わずに調理します。50種類以上のハーブを育てているので、料理ごとに合ったハーブで風味付けします。ドリンクももちろんオーガニック。食器にも、安心・安全を追求していて、「森修焼」という天然石を独自にブレンドした食器を使っています。

アメニティは、国産カミツレエキスで作った自社製品「華密恋(カミツレン)」のスキンケアをご用意しています。化石燃料によるCO2の排出をしない、木質チップで沸かしたお風呂「華密恋の湯」にもカミツレエキスがたっぷり入っています。ゆったりとお風呂につかった後は、自然を感じながらお部屋やラウンジなどでゆっくりと。心も休んでいただきたくて、部屋にはテレビは置いていません。もちろんタオルや寝具もすべてオーガニックです。

――2015年に、日本で初めてビオホテルジャパン(BIO HOTEL JAPAN)認証を取得されました。ビオホテルとは、厳しいガイドラインをクリアすることが条件と聞いていますが、取得に至るまでにはどのような経緯があったのですか。

 

北條さん:宿泊施設として開業して以来、ずっと大切にして提供してきたオーガニックのお食事やスキンケアが評価されることとなり大変うれしかったです。認証団体の一般社団法人日本ビオホテル協会の方と偶然お会いすることがあり、その時にお話しているとこの宿なら取れそうだと分かって取得を目指しました。

それが2010年ごろで、建物が老朽化していたので、ちょうど立て直そうと考えていた時でした。環境問題にも精通している建築家の山田貴宏さんに依頼して、打ち合わせを重ねていたのですが、そのときに、合成接着剤などが原因で摂食障害になってしまった一人の女性が泊りにいらっしゃいました。その方は、学校の保険室で働いていたのですが、新校舎が合成接着剤などを使っていたため、アレルギーが出てしまい、ひどいときには、1カ月で3回もアナフィラキシーを起こしてしまったと打ち明けてくださいました。

そのお話をスタッフ全員で聞いたことで構想が固まり、国産の天然木材を使い、合成接着剤や染料を一切使わない方針を定めて、室内を全面リニューアルしたんです。フードやコスメティックの基準に対しては従来のものをより強化し、CO2排出量削減の取り組みなどの環境基準も徹底しました。オーガニックを徹底した宿で自然の循環を体感する時間を過ごすことで、自然や環境と人間との共生について考える機会を提供し、人間本来の生命力や自然治癒力を高めることを目指しました。

館内には、まるで森のなかにいるような木の香りと温もりがあふれている
  • まるで森のなかにいるような木の香りと温もりがあふれる館内

――カミツレの里と八寿恵荘で、人間本来の生命力や自然治癒力を引き出す、オーガニック・ウェルネス・リトリートを展開されている。とても素晴らしいと思います。ですが、一見、本業との関わりが見えにくいこの取り組みに対して、印刷会社の方の社員の方の理解はいかがですか?

 

北條さん:もともと、カミツレの里や八寿恵荘の運営会社として「カミツレ研究所」を立ち上げていましたが、2019年10月1日にSouGoと合併させました。社員たちの認識が、印刷業とカミツレ事業で大きく離れていると感じたからです。いまは、なぜうちの会社が長野でカミツレの里を運営しているのか社員に理解してもらうように一生懸命働きかけています。

東京で印刷に従事している社員は約80人、カミツレ事業に従事しているのは約30人。カミツレを収穫するために年に1回は東京の社員も来ていますが、100%社員の理解を得られたかと言えばまだそうではないのです。社内でアンケートを実施して、そう感じるような回答を目にした時などは、自分のしていることが間違っているのではないかと、時折へこんでしまうことも実はあるのです。

――続けるには勇気が必要ですが、信念を押し通せるのは社長だけだと思います。サヱグサも、子ども服の販売事業と不動産事業を東京で営みながら、長野県栄村小滝集落でお米づくりをしています。いまはおかげ様で小滝集落の皆さんとのご縁が深まり、交流も盛んになったのですが、始めたときはなぜ子ども服の会社が米づくりをするのか社員に理解してもらうのが本当に大変でした。私も北條さんと同じように感じていた時期もありましたが、いまでは、続けてきて本当に良かったです。子ども服でも不動産事業でもなく、小滝での取り組みを始めとする、本業以外の部分に共感して入社した社員もいます。これからはますます既成概念の垣根を壊さないと新しい価値が生まれない時代になっていくと思っています。

サヱグサは「子どもたちの感性の翼をひろげよう」をテーマにしてさまざまなプロジェクトに取り組んでいますが、まさに子どもたちがこういう場所で本物の体験をすることはすごく素敵だと思います。何かご一緒しませんか。

 

北條さん:私たちは10年以上前からアレルギーを抱えた子ども達のための自然体験教室なども開催してきました。そういう経験を活かせると思います。カミツレの畑の側にツリーハウスがあるのですが、その周辺に子どもたちが楽しめる場所を創りたいたいと考えています。わいわいと子どもたちと一緒につくれたら素敵なイベントになるかもしれませんね。

今後は、スキンケアや食べ物だけにとどまらず、本当の意味でのオーガニックなライフスタイルを提案できる会社になることを目指しています。いろいろな方と関わって活動を展開していきたいです。ぜひご一緒によろしくお願いします。

――こちらこそよろしくお願いいたします!本業とは全く違う取り組みも、理解を広げるにはじっくりと時間をかけなければなりませんが、その思い入れを社員や地元の人たちに伝えて良好で濃厚な関係性を築くことが出来れば、いろいろな活動へ広がる可能性を秘めています。フィールドは違いますが、同志を得た心持ちがしています。これからもお互いがんばっていきましょう。今日はお忙しい中、ありがとうございました。

 

編集後記

北條さんとの出会いは、第6回グットライフアワード環境大臣賞の受賞式でした。CSRの取り組みは、業種を超え素晴らしい出会いをもたらしてくれます。北條さんに引き継がれた「社会のお役にたちたい」という先代からの理念や、自然や環境への想いは、サヱグサのめざすものとも重なり、子ども達の明るく輝く未来に繋がっています。

「八寿恵荘」にお世話になった1泊2日は、日頃のストレスから解放されて癒されただけでなく、衣食住という暮らしそのものを見つめなおすよい機会となりました。皆様にもぜひ体験していただきたいです。

「八寿恵荘」の情報はこちらhttps://yasuesou.com/


北條 裕子 / Hiroko Kitajyo  株式会社SouGo代表取締役社長。印刷事業とライフスタイル事業を展開。印刷事業では持続可能な資材やインキなどを使用し、環境に配慮した印刷物の提案を実施。ライフスタイル事業では、赤ちゃんからご家族全員で安心してお使いいただける、カモミールにこだわったスキンケアシリーズ「華密恋」を製造・販売している。身体的・精神的にストレスにさらされていることの多い時代に、心と身体をリセットする場や製品を提供することにより「人のお役に立ちたい」という想いで、国内生産者と連携してカモミールの有機栽培を広げ幅広い活動に注力する。日本初のBIO HOTEL®認証を取得した宿「八寿恵荘」はピンクリボンのお宿ネットワークに登録しており、10年前から乳がん患者支援団体の活動を支援している。カミツレエキス製造工場、華密恋の湯をお楽しみいただける八寿恵荘、有機JAS認定の自社農園のあるエリアを「カミツレの里」とし、長野県北安曇郡池田町の町おこしも行っている。

 

聞き手 三枝 亮 / Ryo Saegusa  株式会社 ギンザのサヱグサ 代表取締役社長。 1967年東京生まれ 。子どもたちの上質なライフスタイルを提案するスペシャリティストアをディレクションする傍ら、都会に住む子どもたちを取り巻く環境の改善に重要性を感じ、2012年「SAYEGUSA GREEN PROJECT」を立上げる。