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2020.11.01

対談 Green Dialogue vol.13

環境保全、環境教育などを通して社会貢献に取り組むさまざまなスペシャリストに、弊社代表の三枝 亮が話を伺う「Green Dialogue」。最終回となる第13回目のゲストは、“0歳からの伝統ブランドaeru”を展開する株式会社和える(あえる)代表取締役の矢島里佳さんです。赤ちゃん・子どもをキーワードにした事業を展開する両者、歳は二回りほど離れていますが、目指していることが非常に近しいことが分かりました。子どもたちに商品や体験の提供を通して何を伝えたいのか、そして、その真意は。(撮影:Yoshihiro Miyagawa)
株式会社和える(あえる)代表取締役の矢島里佳さん

――明治2年に輸入雑貨商から始まったサヱグサは昨年創業150周年を迎えました。開店以来、子供服を通じて日本の子どもたちに寄り添い、ともに歩んできた時間はかけがえのない宝物です。151年目に入るにあたって、この先の時代によりふさわしい事業展開を目指すタイミングであると考え、長年大切にしてきた「子どもへの視線」を引き継いだまま、子どもたちに「本物体験」をお届けするブランドしてリスタートすることを決めました。「SAYEGUSA&EXPERIENCE」が次のテーマです。創業200年目に向けて、よりよいブランドになるため、次のステップに歩を進めたいと考えています。

 

矢島さん:すごい!英断なされたのですね。大学時代にファミリービジネスの研究をしていたので、受け継がれてきたものを大きく変えることがどれだけ難しいのかを学んできました。

 

――ありがとうございます。今は、いい形で始めたいと思っています。服だけでなく、いろいろなジャンルに本物はあります。建築、音楽、自然体験や伝統工芸もそうです。子どもの頃に素晴らしい体験をしていれば、自我が芽生えたときに、その体験が夢を持つ原体験になります。私は、各界で活躍されている方々の真摯な創造の姿勢、「大人の背中」を子どもたちに見せられたらと考えています。矢島さんが「和える」を起業したきっかけもそのような本物の大人の背中を見たことがきっかけでしょうか。

 

矢島さん:大学生のときに起業したのですが、本当のきっかけは幼少の頃にあったと思っています。高校生のとき何かを伝えるプロになりたいと思い、将来はジャーナリストになろうと決めました。AO入試で慶應義塾大学法学部政治学科に入ったのですが、このAO入試を受けるにあたって、これまでの人生を体系立てて振り返りました。未来と過去のつながりを振り返れたことで、起業につながったと思っています。

 

高校1年のときにOB・OG訪問をした際、自分が人生を掛けて何を社会に伝えたいのか、その「何」が抜けていたと気付かされました。大学では、「伝えたいこと」を見つけたいと考え、これまでの人生を振り返ると、最初に思い浮かんだのが幼稚園で体験した陶芸でした。

 

陶器のひんやりとした触感は鮮明に覚えています。それに、中学・高校のときに所属した茶華道部も原体験の一つです。私は東京で生まれ、千葉のベッドタウンで育ちました。祖父母の家も集合住宅で、伝統とは遠い暮らしをしていました。

だから、日本人に憧れる外国人のような気持ちがあったのだと思います。

「日本の伝統を次世代につなぐこと」を目指し、大学生の時に和えるを立ち上げた矢島さん

お茶室は茶器、茶入れ、掛け軸やなど伝統工芸品に囲まれていて、四季から生まれた豊かな文化を全身で感じられます。お茶会では掛け合いがありますが、知識だけあってもダメで、見えないものを感じることができる感受性も大切です。茶道と華道に出逢ったことで、日本の伝統や文化への興味が顕在化しました。

 

そして、大学生になったときに、ある企業様の会報誌のフリーライターとして職人さんの取材をしました。約3年間連載したのですが、取材で出逢った職人さんの背中に魅了されました。彼ら彼女らは「生きる」と「働く」が一体化していて、働くことは、生きることの一部だと、職人さんの生き様から学びました。

 

私がこの伝統から学んだことを、子どもたちにも伝えたいと思い起業しました。かつて暮らしと伝統はつながっていましたが、いまは離れています。文化の衰退は止まりません。そこで、感性が豊かに育まれる幼少期に伝えることで、記憶にずっと残ると思ったからです。

 

どう伝えていこうかと考えていたときに、ある職人さんから、漆塗りのお箸をプレゼントしていただきました。そのお箸でご飯を食べたときに感覚的に気付いたのです。記事で伝えるだけでなく、モノを介して伝えるジャーナリズムが成立するのではないかと。そこで、赤ちゃん・子ども向けに伝統産業品を販売している会社に就職しようと考えたのですが、そのような会社を見つけられず、起業という道を選びました。

 

――そういうきっかけがあったのですね。伝統を残すためには、これからの日本を背負って立つ子どもたちに直接伝えることが最短距離ですものね。現代では、モノへの価値観が変わり、伝統的な職人技が生み出す価値を消費者が理解しにくくなったり、また核家族化やご両親が共に仕事に活躍されていることの多いこの時代には、家族から子どもに「漆器とはね・・・」と伝えるなど、暮らしの中で自然に伝統を受け継いでいくという機会が少なくなってしまったように思います。でも、これらのことを時代だから、と言ってあきらめたくない。伝統文化を未来に引き継ぐために、サヱグサがお役に立てることが何かあるのではないかと思っています。

 

矢島さん:利便性と経済性が押し寄せてきた結果、昔の暮らしの中にあった「豊かさ」が削がれてしまいました。「和える」では、2018年から日本の伝統に触れながら豊かな感性を育む学びの場“aeru school”を開催しています。この“aeru school”の一環で、お子さま向けにお箸や汁椀の持ち方など、日本ならではの美しい所作を学ぶ所作講座を開催してきたのですが、この講座の真の狙いはお子さまだけでなく、ご両親もともに学んでいただく機会を生み出すことです。なぜなら、ご両親が所作を学ぶ大切さを理解していないと、子どもに伝えたいと思っていただくことが難しいためです。

 

やはり、お道具だけをお渡ししても、扱い方を知らないとその価値が伝わりません。そうすると、文化が途切れてしまう。今の時代の暮し手の多くは商品ができる背景をご存じないので、職人さんの技を見るまでは、なぜその金額なのか理解できない方も多いと思います。職人さんの手仕事に触れ、商品が生まれるプロセスを感じてもらいたいと考えたことが、和える“aeru school”を立ち上げた背景にあります。

“0歳からの伝統ブランドaeru”では、衣類やおもちゃ、器など、職人と作り上げた様々なオリジナル商品を展開

――大きく共感します!サヱグサも子供服を創造する会社から体験を創造する会社になろうとしています。子どもたちに、服だけでなく、例えば、建築や音楽、食、自然などあらゆるジャンルの、様々な視点からの本物体験を提供していきたいと思っています。例えば、学校では算数を学ぶゴールは教えられません。良い点をとることだけを目的にすると、勉強嫌いになる子を生んでしまう可能性があります。もし、小さいときに建築家を目指そうというような体験をしていたら、その夢を叶えるために算数に興味を持ち、能動的に取り組み始めるのではないでしょうか。このような子どもの可能性を引き出すような体験を提供できれば、人生を歩む上で、本当の意味で必要なことを気づいてもらえることができると思っています。

 

矢島さん:私は幼少の頃から習い事をたくさんしてきました。どれも楽しくて、毎日のように何かしらの習い事に通っていたのですが、両親が交代で送り迎えをしてくれていました。今思うと、両親からたくさんの機会を与えてもらっていたこと、本当にありがたいなぁと思います。

 

――小さい時から色々なことを経験しているから、モノゴトを俯瞰的に見る目を持てているのかもしれないですね。いい意味で、極端に一カ所に大きなこだわりがない。

 

矢島さん:両親は、私が興味を持ったことに関しては、いつも体験させてくれました。自由を与えられた分、責任も感じましたが、多くの選択肢を与えてくれました。自ら思考することを大切に育まれたので、自分だったらどうするのかを考えるようになり、いつも疑問と解決策をセットで考えるようになりました。

小さな手でも持ちやすいデザインの『こぼしにくいコップ』シリーズ。青森の津軽塗り、福岡の小石原焼、沖縄の琉球ガラスの3種類から選べる

――「自由」と「責任」はペアであることを教えてくれたのですね。素晴らしいご両親ですね。ご両親が矢島さんにもたらしてくださった体験には及ばないかもしれませんが、サヱグサも、日本の子どもたちへの想いを込めて子供服を選んできた、その「目利き力」を活かして子どもの成長につながる本物体験を選び、提供していきたいと思っています。

 

矢島さん:私の妹に子どもが産まれたときに、お洋服とファーストリングをサヱグサさんで購入させていただきました。子どもの頃から叔父や叔母から質の良い物を贈られていたので、妹の子どもが産まれたときに真っ先に思い浮かんだのがサヱグサさんの商品でした。商品を選んでいると、まさにその「目利き」を感じました。新しい業態になられ、みなさまの目利き力でどのような体験を提供されるのかとても楽しみです。

 

特に今の時代は、子どもたちの感性を「育む」土壌が重要だと思っています。私たちの仕事の根底には「育み」ということがあります。実は子どもは「教え育てる」必要はなく、「教育」は大人にこそ必要だと思います。

 

ー―「エデュケーション」という英語は、「教育」と訳されますが、本来はもともとある力を「引き出す」という意味を持ち、「教える」というよりも、「育む」という方が正しいそうですね。子どもの能力を引き出すためには、「育む」ことが重要。詰め込み式に教えるのではなく、子ども本来の気づきや好奇心を引き出してあげることが大切なのでしょう。

 

矢島さん:子どもの感性を引き出すためには、詰め込み式に強制的に教えると大人になる前に疲れてしまいます。だから、もともと持っている好奇心を引き出す機会をつくることが大切なのですが、そのためには、「ナナメの存在」が大事だと思います。

 

ナナメの存在とは、叔父や叔母のような存在とも言えます。両親の嗜好性の範囲とは異なるところを担う、サヱグサさんにはそういう存在になっていただけたら嬉しいです。

――ありがとうございます。僕らの存在は、きっと子どもたちの良き成長につながっていくでしょう。ところで、里山づくりも始めようとされていると聞きました。

 

矢島さん:はい、“aeru satoyama”事業に取り組んでいます。伝統産業の多くは山の恵みから成り立っているので、企業がサステナブルに里山を守り育むことに挑戦したいと思っていました。全国を周ってご縁が生まれた、秋田の五城目町で“aeru satoyama”事業を始めたいと思い、地元の方々のご協力をいただきながら2021年に本格始動の予定です。ぜひ事業を育むにあたってのアドバイスをいただけたらうれしいです。

 

――そうなのですね。サヱグサも2014年から長野県栄村にある小滝という里山と、交流を続けています。「サステナブルな里山を守り育む」という点で気をつけなければいけないと思うのは、近代化をすすめて存続を目指すのではなく、里山ならではの強みに気づき、それを活かすお手伝いをするということですね。例えば、地方創生のために、大企業の誘致などを考えることもありますが、それだけでは問題は解決しません。流通がストップした豪雨災害やコロナ禍を経験し、一局集中型の東京の生活よりも、里山で暮らす方が強みを持っていると気付く人が増えてきたように思います。豊かな資源、食糧やエネルギーが手元にあることがどれだけ素晴らしいことか。この強みに、当の里山の方たちがまだ気付いていないかもしれません。もともと持っている素晴らしい資源を活かして欲しいと思っています。私たちは、都心の子どもたちを連れていく里山体験の候補地を探すため、近郊県数十カ所の里山を周ったのですが、最終的に選んだのは都心から車で4時間もかかる、コンビニが一軒もない栄村です。栄村には日本の原風景が色濃く残っており、だからこそ気付けることが多いのです。今では、子どもたちの学びの場になっていますし、素晴らしく美味しいお米にも出会ったので、お米のリブランディングにもかかわっています。里山ではこのような偶発的な出会いが生まれますよ。

 

矢島さん:アドバイスをありがとうございます。五城目では、伝統産業に欠かせない漆の植樹事業なども考えているのですが、五城目の自然の力を活かして取り組んでいきたいと思います。いつかは、里山テーマパーク「和えるランド(仮)」をつくりたいと思っています。

 

――和えるランドとはどのようなものでしょうか。

 

矢島さん:観光客は里山に遊びに来た「クマ」という設定で、“aeru satoyama”を堪能してもらおうと考えています。伝統文化と通じる山の楽しみ方を存分に満喫していただけるよう、さまざまなアクティビティーを考えています。ちなみに、和えるランドで遊ぶ際には、入園者にはテディベアの耳をつけていただきます(笑)。

 

案内人は、昔から住んでいる山守りの与左右衛門さん(73)です。和えるランドでは、唯一の人間が与左右衛門さんという設定です。五城目町の里山で生きてきた方で、里山での遊び方を誰よりも知っていて、魅力的な人です。五城目町でぜひ“aeru satoyama”事業を実現したいと思った最大の理由が、与左右衛門さんがいらっしゃったからなのです。築135年の茅葺の古民家を改修して、宿泊棟もつくります。

 

――おもしろそうですね。ぜひ遊びに行かせていただきたいです。小滝にも、素敵な長老たちがいます。そのひとり、利行さんはなんと、キノコ狩りの時に本物の(!)熊と遭遇したのですが、巴投げで撃退したという強者です。五城目と小滝、お互いに交流したいですし、地元の方どうしの接点もいい刺激になるはずです。私と矢島さんは、考えていること、見ている景色が非常に近しいと感じています。これを機会に都会でも里山でもコミュニケーションを続けていきましょう!

 

矢島さん:ありがとうございます。こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします。


【編集後記】

今まであったものを守り受け継いでいくことは、「変えてはいけない」ことをかなり意識していかなければなりません。同時に進化もしていかなければいけません。伝統工芸と同じようにサヱグサも、「子どもへの姿勢」と「目利き力」を大切にしながら、様々なことにチャレンジし、「サヱグサイズム」を守り育んでいきたいと考えています。「和える」さんは、私たちが目指していることをまさに実行されており、その活動はとても参考になりました。ともに「子どもの良き成長」を目指す会社として、これからもぜひ、いろんなことでご一緒させていただきたいと思います。


矢島里佳/Rika Yajima

1988年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。職人と伝統の魅力に惹かれ、19歳の頃から全国を回り、大学時代に日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。大学4年時の2011年3月、「日本の伝統を次世代につなぐ」株式会社和えるを創業。日本全国の職人と共にオリジナル商品を生み出す“0歳からの伝統ブランドaeru”を立ち上げ、東京・京都に直営店を出店。「ガイアの夜明け」(テレビ東京)にて特集される。その他、日本の伝統を暮らしの中で活かしながら次世代につなぐ様々な事業を展開。

 

聞き手 三枝 亮 / Ryo Saegusa  株式会社 ギンザのサヱグサ 代表取締役社長。 1967年東京生まれ 。子どもたちの上質なライフスタイルを提案するスペシャリティストアをディレクションする傍ら、都会に住む子どもたちを取り巻く環境の改善に重要性を感じ、2012年「SAYEGUSA GREEN PROJECT」を立上げる。