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2021.05.01

<Sayegusa Experience Talk> No.3 寒川一さん

アウトドアライフアドバイザー・寒川一さんが語る
子どもたちに伝えたい ”生きるちから” とは

第三回目は、アウトドアライフアドバイザーの寒川一(さんがわはじめ)さんをお迎えしました。

寒川さんは、アウトドアのノウハウを楽しく実践的に学び災害被災時に役立てる、体験型の「防災アウトドアプログラム」を行う、アウトドアライフアドバイザーです。寒川さんのいうアウトドアは、欧米で盛んなスポーツ(例えばロッククライミング)としてのものではなく、スウェーデンやフィンランドなど北欧の人々が、厳しい自然環境に囲まれた中で積み上げてきた“生きるための知恵”としてのアウトドアなのだそう。寒川さんの「焚火カフェ」に伺ってお話をお聞きしました。

 

寒川一(Hajime Sangawa)

1963年生まれ、香川県出身。災害時に役立つアウトドアの知識を書籍、キャンプ体験、防災訓練などを通じて伝えるアウトドアライフアドバイザー。三浦半島を拠点に焚き火カフェなど独自のアウトドアサービスを展開。北欧のアウトドアプロダクトを数多く扱うUPIアドバイザー、フェールラーベンやレンメルコーヒーのアンバサダーなども務め、スカンジナビアのアウトドアカルチャーに詳しい。
著書に『新しいキャンプの教科書』『アウトドアテクニック図鑑』『新時代の防災術』などがある。

三枝(以下S): この秋谷海岸周辺は、学生時代をヨットに明け暮れた私にとって、とても思い出深い場所です。今日は焚き火を囲んでの対談ということで、とても楽しみにして来ました。

寒川さんはサラリーマンから転身されたとお聞きしました。今の活動につながるきっかけは何だったのですか?

寒川さん(以下SH): はい。僕は美大で彫刻を学んだ後、玩具メーカーで商品企画を約10年していました。入社2・3年目ごろ、いわゆる五月病といいますか、自分の今や未来に閉塞感を感じていた時期がありました。僕が毎朝乗る通勤電車のホームの反対側にはいつも、楽しそうに浮き輪や釣り道具などを持って明らかに遊びに行く様子の人たちがいました。かたやこちら側では皆、ダークスーツ姿で疲れた顔をしている。

同じホームの背中合わせで、どうしてこんなに違うのだろうといつも考えていたんです。そしてとうとうある朝、気づけば会社と逆方向の三崎口行きの電車に乗っていたんです(笑)。その日は一日、スーツのままで海を眺めたり海岸を歩いて過ごして、会社をサボってしまいました(笑)。

S:大胆ですね!でも気持ちはよくわかります(笑)。

 

SH:もちろん翌日は出社したのですが、日焼けで真っ赤になった顔では言い逃れはできないと思って正直に話しました。もちろん上司からのお説教はありましたが、堂々とサボった僕への驚きの方が大きかったようで、「無断でというのは良くないことだけれど、たまには君みたいに肩の力を抜くこと(サボること)も大事なのかもしれないね」と言ってくれました。この体験で、閉塞感から自分を解放するということの大切さを学んだのです。

その後7年ほど勤めましたが、この時の体験が原点となって、“人をサボらせる人”になりたいなと思うようになったんです。それをアウトドアというジャンルで表現したいと。そのひとつが2006年に始めた焚火カフェです。夕日の時間、僕はただここにいて火を焚いて、サボらせてあげます。ここを訪れた人は、ゆっくり流れていく時間の中にじっと身を置くだけ。「あそこに行けば、あの人がサボらせてくれる。」そんな存在になりたいなと思っています。

S : なるほど。肩の力を抜く時間は都会の人間にとって本当に大切だと思います。
たまにこんな風に、非日常の静かな時間に身をおくと、忙しい日常とのバランスも取れるのでしょう。これは今の時代、勉強や稽古事で大人並みに忙しい子どもも多いですから、大人に関してのことだけではないでしょうね。

SH : 尾ケ島までカヤックで渡ると、たった1キロくらいの距離なのですが、いつもいる場所の反対側、島から陸地を眺めると動物の目線になれるんです。また自然が減ってしまったなというのがよくわかります。マンションがひとつ立つと風が変わり、風が変わるとやってくる鳥が変わる。そういうことに気づいている人ってほとんどいないと思います。僕は、都心から疲れてやってくる人を、時にはカヤックでサボらせ、焚き火でサボらせ、時には山の中に入ってハンモックで昼寝をさせてあげる。そんな“サボり”の時間を提供しています。

アウトドアと聞くと「動」のイメージが強いと思いますが、“サボり”に結びつくのは北欧スタイルの「静」のアウトドアです。じっとしていると風を感じることが出来るし、地球が回っているのがわかります。太陽は角度を変えていくし、雲も流れている。動かないということは、実は大きなインプットをもたらしてくれる。ただ、ここで重要なのは自然の中にいることです。それを指針に活動をしています。今、17年目になりましたが、おじいちゃんになっても続けて行きたいと思っています(笑)。

S:ぜひ続けていただきたい!
自分を解放する“サボり”の欲求というのは、多かれ少なかれ皆持っていると思うのですが、実際に行動に起こせる人というのは少ないですよね。かつ、人を受け入れる場を作られたわけですし。幼い時の体験でその行動の原点になったと思われるものはありますか?

SH:ありますよ。父です。テーラーだったので手が器用な人でした。その父が早く帰宅したある日、「今日は外食をするぞ」と。当時は誕生日くらいしかそんな機会はなかったので、僕たちは小躍りをして喜びました。するとなんと父は、ちゃぶ台を玄関の外に出したんです!人の往来のある道端で食事をするわけですから、母や兄たちは恥ずかしがっていましたが父はお構いなしで「どうだ、楽しいだろう。でもこれは、特別なことじゃないぞ。」と。僕はそれがとっても嬉しかったし、すごく素敵だと思った。

S:素敵なエピソード! お父さまが教えてくれたのは、ちょっとした工夫で世界が変わるという “気づき” ですよね。

 

SH:そうです。ドア一枚隔てた外は、俯瞰で見ると数メートルしか移動していないのに、世界が大きく違う。この時父がくれたヒントが、僕をアウトドアの世界、「ドアの外」に導いてくれたと思っています。北極圏や遠くの山や森へ出かけても、心はいつも家を想っている。戻る場所は家なのです。家と自然をドアひとつで隔てているというこの感覚はこの時に生まれたのでしょうね。

このエピソードは3人兄弟の中で僕にだけ強烈な印象を残したようで、兄たちは覚えていないって(笑)。彼らは僕とは全然違う仕事についています。

 

S:それは面白い。同じ体験をしても感じ方がそれぞれ違う。記憶にすら残らない子もいる。それが個性ですね。

SH:これが僕のアウトドア観の原点です。即答できます(笑)。

 

S:寒川さんは、子どもたちにもいろいろな体験を提供されています。今の時代、特に最近はコロナ禍もあります、そんな中で、アウトドアを介して子どもたちと接点を持たれている中で、どんな事を伝えたいと思って活動されているのでしょうか?

SH:僕は、限られた時間を使うなら、なるべく子どもたちに使いたいと思っています。というのは、僕がアウトドアを通じて伝えたいのは、「生きる力」なんです。人が生きていく上で何が必要で何が必要でないか、それを子どものうちに知ってもらいたい。生きるための基本は、体温を守って、水を飲むこと。火と水は命に直接つながります。これは3万年前の原始人の時から変わらない原理です。そういう事をちゃんと理解した上で、ゲームでもなんでも楽しんでくれればいいと思う。

「生きる力」というのは、歳を取れば理解できる、スキルを取得できるというようなものではないんです。自然に身つくものではない。スキルを持った者が導いてあげなければいけないものです。

アマゾンには、バンジージャンプが大人への通過儀礼という部族がありますね?そこで生き物としての生存能力が試されるように、アウトドアスキルは現代の通過儀礼としての知恵なのではないでしょうか。スエーデンでは、3歳になるとナイフの使い方を教え始めます。危ないものを遠ざけるのではなく、その存在の意味と、危なさをきちんと学ばせます。それが「生きる力」です。3歳は早いとしても、例えば5歳くらいのうちに「生きる」というベースを持てば、その先怖くないというか、その子の人間性にも大きく影響するのではないでしょうか。

S:なるほど。先行きが見えず、何が起こるか予測出来ない時代だからこそ、子どものうちにそういう基本の体験やスキルを身につけて欲しいと。そうでないと、社会経済自体もサバイバルになっていきますからね、それも乗り切れなくなるかもしれないですね。

 

SH: そうです。子どもにこそ「生き残る」というセンスを持たせたいのです。

 

S:今の社会問題の解決も、一番確実な手段は子どもたちにしっかり伝える事なのですよね。急がば回れで、その子たちが成長した時には世の中が変わるでしょう。我々大人の役割は、そこにあると思っています。

SH : 一人の人間としての僕の時間にはリミットがあるけれど、その時間を使って子どもにしっかりバトンタッチすれば、またその次のゼネレーションに継承することができる。それがめんめんと続けば僕らの想いは永遠になると思うと、未来への不安は少し和らぐ気がします。だから一人でも多くの子どもに、一日も早くバトンを渡したいです。

S:SDGs に向き合うにも、その「生きる」という点を抑えていないと。表層面へのアクションだけでは地球への影響は何も変わりませんね。それを分かってもらう努力を大人たちがしていかないといけないという事ですね。

SH:そうです。環境にフォーカスしすぎるとずれていく可能性もあると思うのです。「生きる」にフォーカスした方が、「水が大切」とか「火が大切」とかエレメントが浮き彫られます。生きるために樹木が必要で、綺麗な水が必要。人間は地球に生かされている。僕は今、アイヌやサーミ(ラップランド及びロシア北部に住む少数民族)の方たちとの交流を深めていますが、彼らの生き方から学ぶものは多いです。

S:サスティナブルとか、ソーシャルとか色々言葉は出てきますが、その全てに「生きる」ということが原点になければいけない。そのメッセージがすごく大切だという気づきをいただきました。

資源や食料にしても、生きるために必要な分だけ自然から分けて貰えばいいものを、人間は独占したがる。そこからいろんな問題が始まっていますね。

SH:火をおこすためのこの流木はこの浜で拾います。毎回ちゃんと必要な分が流れ着いています。多ければ他の人のために残します。自然のサイクルと人間が必要とする量みたいなものは、本来バランスがとれているはずなんです。それを、欲を出した人間側が壊してしまう。

僕らも地球にとって必要なパーツのはずです。それが焚火だと思っています。50年ほど前までは、人は生きるため、体を温め、食べるために火をおこした。そのために木を育て、その木が二酸化炭素をすってくれて、土を豊かにして水を綺麗にするという順当な流れがあったのです。便利という価値観が全てを変えてしまった。とはいえ、今となってはもう、ある程度の便利は捨てられない。これからの時代にはチェンジよりもアップデートの方が合っているのではないでしょうか。

S:便利は捨てられませんね。よくわかります。資本主義経済をすぐに変えることも出来ません。でもその資本主義経済を学ぶ前の子どもたちが、人間の原点としての「生きる」ということを正確に体験し身につけておいてくれると、無茶をして環境を壊したり人に痛みを与えたりすることのない社会が実現するのではないでしょうか。

SH:子どものうちに体験することで、本能として自然や環境に興味が持てるようになると考えています。僕は子どもたちにナイフや火を教える時に、3万年前の話からはじめます。初めて人が道具として刃物を持ち、火を起こしたその目的は何か。それは人が「生きるため」だという事です。火の起こし方を教えるのではなく、なぜ火をおこすのかを教えたい。体をあたためるためであり、食べるため。自分のからだに落とし込むことによって理解が深まります。

そういうことを学ぶには5−6歳がちょうど良い。どの年代にも同じ話をするのですが、教えていて一番手応えがあります。理解力で言えば、言葉と絵や音楽など感覚の両方から物事を理解することが出来る年齢ですので、非常に柔軟です。人間として一番素直な(笑)年齢なので吸収力がすごいです。

S:サヱグサは子ども服を通じて0歳から12歳までの子どもたちと接してきましたが、5−6歳という年齢は、ちょうど自己が出来上がっていく大事なタイミングだと理解しています。

でも、もしかしたら子どもの方が、こういうことは本能的に必要なことだって分かっているのかもしれないですね。それを毎日の生活習慣が遠ざけてしまっているのでしょうね。

SH:火やナイフは本来危ないもの。子どもって、なんでなんでの生き物だから、「なんで火を使うのか」「なんでナイフを使うのか」という疑問から入ってくるんです。その「なんで」をしっかり解き明かしてあげるとちゃんと理解してくれます。

「生きる」ことの中には、火のこと、水のこと、食べることも全て包括されています。それをひとつひとつ形として立ち上げたい。火を起こす、飲み水を得る、当たり前のことではないのです。道具があって、テクニックがある。すごく面白い世界です。どうして学校で教えないのかなって思いますね。

それから、天然水を薪で沸かした湯と、水道水をガスで沸かした湯は全然違います。薪で沸かした湯は柔らかくて、美味いです。分子レベルの違いですが、それを人間の舌や肌は感知できる。人間はすごいセンサー機能を持っています。でもこれは体験しないとわからない。それに少しでも早く気付かせてあげたい。

S:その感受性はぜひ開いてあげたいですね。いつか週一時間でもいいから授業に組み込まれるといいですね。

サヱグサは今、「感性の翼を広げよう」というテーマのもと、子どもたちにさまざまな体験や気づきの場を提供する会社に変わろうとしています。子どもたちのためにできることを一生懸命模索しているところです。ですから、「生きる」という言葉にはとってもエネルギーを感じますし、いい気づきを頂き感謝しています。子どもたちの良き将来のために何かご一緒できれば嬉しいです。

 

SH:ぜひ実現しましょう。子どもたちとの出会いは、ピュアだった頃の自分に戻してくれます。先ほどの父の話ですが、あれこそ「どこでもドア」だと思うんです。心の扉を開かないと本当の意味でのアウトドアではないのです。少しでも多くの子どもたちのドアが開く瞬間に立ち合いたいと思っています。

 

波間に映る夕陽が眩いマジックアワーのひととき。焚き火のパチパチとはねる音と波の音が、耳に心地よく響きます。寒川さんのお手前で、スウェーデン方式のカフェをご馳走になりました。

< 寒川さんの著書ご紹介 >

 

アウトドアテクニック図鑑』寒川一(著)、池田書店

ナイフを使いこなしたり、火を熾したり、ロープワークを駆使したり、現地にあるものをうまく利用するのが本格的なアウトドア。素晴らしい自然環境で暮らすスウェーデンをはじめとした北欧の人々のアウトドアスタイルを参考に、生きるための知恵や技術が、子供にもわかりやすい言葉で丁寧に書かれています。

 

『キャンプ×防災のプロが教える新時代の防災術―アウトドアのスキルと道具で家族と仲間を守る!』寒川一 (監修)、学研プラス

東日本大震災以来、アウトドアライフアドバイザーとして防災の体験プログラムなどで防災術を伝授してきたキャンプ×防災のプロが寒川さんが監修した、新時代の防災マニュアルです。防災に対する心構えや備えから、水と火の確保、必要なキャンプ用品と最低限覚えたいスキル、避難時に想定される局面に対するライフハック、食事アイデアまで、自分と家族と周囲の仲間の命を守るための“術”が満載です。

 

  

いまSAYEGUSA は、子どもたちが様々な感動や気づきに出会える環境を創造するブランドとして生まれ変わろうとしています。 SAYEGUSA が提供するホンモノの体験を通じて 子どもたちの感性や創造力を、もっと大きく、もっと力強く育ててあげたい。彼らの無限の可能性を引き出し、その未来をかたちづくるホンモノの体験を丁寧にひとつひとつ差し出せるような 夢いっぱいの”ワンダーランド(プラットフォーム)”を目指したいと考えています。 新しいSAYEGUSAをお披露目するまでの間、対談コンテンツ「Sayegusa Experience Talk」を配信いたします。大空に飛び立つ綿毛を見守るタンポポのように三枝亮とゲストが、夢に向かって飛び立っていく子どもたちにエールを送ります。

Photo : Yoshihiro Miyagawa