<インタビュー> 田尾 沙織さん

2024.04.16

<インタビュー> 田尾 沙織さん

永遠と一瞬のファインダー

柔らかな光と色でとらえた、都市や自然、そして愛すべき人々の営み。
田尾沙織さんの写真は、何気ない一瞬の尊さをときに優しく、ときに力強く伝えてくれます。その表現力の源について聞きました。

photograph _ Yoshihiro Miyagawa

田尾 沙織(たお さおり)

写真家。1980 年東京都生まれ。2001年第18回写真ひとつぼ展グランプリ受賞。2007 年個展『 LAND of MAN 』、2013年個展『ビルに泳ぐ』やグループ展にも積極的に参加。写真集『通学路 東京都 田尾沙織』、『ビルに泳ぐ』(PLANCTON)、雑誌、広告、CF、映画スチールなど多方面で活躍中。

photo by saori tao

最初に自分で撮った写真を覚えていますか?

小学生のころ、自作の洋服を着せたお人形を窓際に座らせ、小さなカメラで撮ったもの。逆光を浴びた人形が綺麗で、これを残したいと思いました。残念ながら技術がなく、現像したら真っ暗でしたが(笑)。自分が見た一瞬の光景をそのまま残したいという気持ちは、今の田尾さんの写真にも通じそうです。写真は高校から本格的に始めました。カメラを持っていない日に夕陽が綺麗だったりすると悔しいから、いつも持ち歩いて。当時撮っていたのは自分の街や友人です。技術はいまより劣るけれど、17 歳の私が撮った写真はいまは撮れない。だからこそ、いつも心に残った瞬間は写し取っておきたいと思うんです。

世界を旅する中で子どもたちも写していますね。

子どもは世界共通で、大人の想像とは全く違う考え方や、行動をとるのが魅力的です。私は海外の撮影先でボランティアをしたことがあり、スリランカの幼稚園で働いたとき、子どもたちがやたら水筒の水を飲むんです。先生に訳を聞くと「この時期、皆が新しい水筒を買ってもらうから、とにかく嬉しくて飲んでいるだけ」(笑)。でもそれがとても可愛くて。モンテッソーリ教育(子どもの自発性を尊重するイタリア発祥の教育法)のアフタースクールでは、粘土をひたすら平らに伸ばしている子に「これは何?」と聞くと「海!」と返ってきたんです。他にも「これはママが日曜に焼いてくれる花のパンケーキ」といった感じで、彼らの発想の自由さを感じました。

愛機のハッセルブラッド501Cは、写真専門学校生のころ手に入れて以来、ずっと田尾さんの相棒。
愛機のハッセルブラッド501Cは、写真専門学校生のころ手に入れて以来、ずっと田尾さんの相棒。

ご自身が子ども時代から変わらないところは?

ちいさな疑問を持つこと。工事現場の壁にいつも森の絵が描いてあるのはなぜ?とか、水たまりにオイルが流れるとなぜ虹色になるの?とか。それはいま写真を撮る好奇心にもつながるかもしれません。人は写真がなくても生きていけるだろうけれど、やっぱり、この瞬間を残したいと思ってしまう。この「なぜ」の答えは一生わからない気もします。でも、絵でも料理でも、私たちはそうした積み重ねで生きていくものだとも思うし、この20年、撮ることが私の生きがいになっているのは確かです。

最後に子どもたちへのエールがあればぜひ。

いま2歳の息子がいて、子どもの「今日」は一度きりだから、なるべく写真に撮っています。成長してヘンに反抗したら「あなたは一歩一歩頑張ってここまで成長してきたのよ」と見せてあげたい。彼とすごす日々も、旅先でのお話同様、子どもの創造力の豊かさを教えてくれます。だから私たち大人は、それらをしっかり見て、聞いて、受け容れてあげられたらいいなと考えています。人は大人になるほど固定観念に縛られがちですが、子どもの世界に共感し、良い距離感で見守っていけたらと思います。